第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
「何やって…!濡れるさ!」
慌てて追い掛けるも、南は止まらなかった。
視界の悪い雨の中で見失わないように走る。
持ってる傘が邪魔で中々追い付けない。
でもチビから借りたもんだから、放り出す訳にもいかずとにかく走った。
オレが濡れるのは構わないけど、南をずぶ濡れにさせる訳にはいかない。
折角オレの為にお洒落してくれたってのに。
もう少し堪能させてくれても…ってヒール履いてる癖に足速いのな!
マジで待てって!
「っ南…!」
どうにかその細い手首を掴めた時には、互いの体はすっかりずぶ濡れ状態。
ようやく足を止めた南が、俯いて荒い息を零す。
「ぜぇっ…は…んで、捕まえ、るの…っ」
「捕まえるだろ、フツー。つかなんで逃げるんさ」
「逃げてな…っぜ、はぁ…ッ」
すんごく苦しそうに息継ぎするもんだから、余程全力疾走してたんだろう。
振り返った青い顔が、過呼吸気味に忙しなく喉を震わせてる。
…大丈夫さ?
やっぱ科学班はインテリ組さな。
ファインダーと違ってとことん体力ない。
「とにかく、遅いかもしんねぇけど一旦傘に…」
「いい。もう、着いた」
着いた?
南を追い掛けるのに夢中で、気付かなかった。
周りを見れば、見知った岩場と水路を見つける。
此処は、教団の地下水路の入口だ。
どんだけ必死に走ってたかと思えば…教団に帰りたかったんか。
つか、なんで急に。
仕事の用事でも思い出したんさ?
…南ならあり得そう。
「どうせ帰る途中だったし、ンな急がなくても…今日くらいゆっくり休めよ」
南の頭上に傘を差してみるものの、ふんわりと巻かれていた髪はぺったりと南の顔に張り付いていて、化粧も落ちたのか目の下の隈が見える。
これじゃあ傘の意味はないさな…。
まるで今日一日の魔法が解けたみたいに、くたびれた白衣姿のいつもの南を思い起こさせた。
「折角可愛い格好してんのに…」
どんだけ早く帰りたかったのか。
折角の可愛い南の姿の見納めと同時に、一日の終わりを告げられているようで、気が沈む。