第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
「割とこれでも色んな人間を見てきたから。何処に行っても戦戦戦。皆馬鹿の一つ覚えみたいに、他人の命を奪うことしか考えてない。それを好きになれって方が難しいだろ」
「………」
そうだね、と肯定することも、そんなことないよ、と否定することもできなかった。
ラビは教団のエクソシストとして働いているけれど、本業はブックマン。
人々の歴史を第三者として記録して綴っていくことが、彼の本来の仕事だ。
私より遥かに沢山の人々の命や生き様に触れてきたはず。
そして、沢山の人の死にも。
「ま、そんな戦争に今はオレも身を置いてんだけど」
雨空を見上げていたラビの目が、私へと向く。
「そうやって経験するとさ、割り切って生きていたつもりだったのに、割り切れなくなったもんも出来てしまった。ジジイにブックマン失格だって言われても仕方ないよなって思う」
「…言われるの?」
「偶にな。未熟者がってお怒り喰らうさ」
笑うラビの顔はいつもの明るいものだったけど、なんとなくつられて笑えはしなかった。
私も、言うなれば戦に染まっている人間だ。
前線で戦ってはいないけれど、聖戦という戦に身を置いている。
そんな私を、ラビがそんな冷たい目で見てきたことなんて一度もない。
"そういうところ"が、きっとブックマンに怒られるところなんだろうけど。
ラビの"そういうところ"が、きっと私の好きなところ。
私と、そして。
「…だから、ダグ君も…」
「? なんさ?」
小さな呟きは、雨音に掻き消されてラビの耳まで届かなかった。
…私と同じだ。
ラビの"そういうところ"に、きっとダグ君も心を開いたんじゃないかな。
ブックマンとしては未熟者かもしれないけれど、そんなラビだから教団の皆も命を預けられているんだと思う。
そう思えば、すんなりと今のラビの感情を受け入れられた。
首を横に振って、笑顔を返す。
「ううん。なんでもない」
いつか、ダグ君のことをラビに伝えられたらいいな。
私が感じた、彼の心を。