第84章 オレの好きなひと。《ラビED》

ザアアアアア



足音を消す程に激しい雨音。
小さな子供用の傘じゃ、大人二人の体は隠せない。
特にラビの体は一般男性からしても、大きな方だから。



「南、もちっと引っ付けって。濡れるから」

「っ」



肩を抱き寄せられて、半ばラビに抱き付くような形になってしまう。
激しい雨音が響いているけれど、自分の心臓の音がラビに聞こえてしまいそうで恥ずかしい。
く、くっつき過ぎじゃないのかな…。



「あの子、本当に魚好きなんだね」



気を紛らわせる為に、青い傘の中を泳ぐ魚達のプリント絵へと話題を振った。



「可愛かったな」

「南って子供好きなんさ？」

「ラビだって懐かれてたじゃない、子供好きじゃないの？」

「そーさなぁ…普通かな」



意外な返答に、近い距離にも関わらずラビを見上げた。
あんなに楽しそうに遊んでたのに。
絶対子供好きだと思ってた。



「…ラビって人間観察好きだよね」

「なんさ急に」

「それって、人が好きだからじゃないの？」



あの暴力的な神田相手にしても、めげずに絡んでいくし。
教団では日が浅い部類に入るラビだけど、周りとの馴染み具合は何年も前から其処にいたかのように見える。
友好的に歩み寄って、相手との距離をなんなく縮める。
それはラビだから成せることだ。



「オレさ、人間のこと好きなんさ」



不意に私を見返したラビの目が、再び雨空へと向く。
ぽつりと呟かれた言葉に、だよねと賛同しようとして。



「でも、人間のことが嫌いだ」



予想外の言葉に、止まってしまった。



「…何言って…」

「南だから、ありのままのオレを見て欲しいから、言うけど」



今、嫌いって言ったの？



「人間観察は、ブックマンとしての癖みたいなもんかな。人間に興味があるからやってる。そこに好意みたいなもんはないさ」

「…本当に？」

「こんな嘘ついても得なんてねぇだろ」



確かに、それはラビの言う通りかもしれないけど…。

予想外だった。
ラビがそんな感情を、他人に抱いていたなんて。
いつも明るく人懐っこいラビの姿からは、簡単には想像できない。