第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
「あっウサギのにーちゃん!」
「にーちゃんだ!」
「だっれが兎だ、だっれが」
不意にぴょこんっと視界に飛び込んできたのは、クラゲの水槽前でひと騒動あった小さな兄弟だった。
余程ラビのことを気に入ったんだろうな。
呼び名に不服を申し立てるラビにも構わず、楽しそうに絡んでくる。
「また今度、いっぱいお魚の話してよ!」
「ヘイヘイ。また会ったらな」
「おれたち、よくここに来るから」
「おねーちゃんも一緒に来てよ」
「うん。今日はラビと沢山遊んでくれてありがとう」
「オイ。オレが遊ばれてたのかよ」
「へへッそれほどでも。なっ」
「うんっ」
「だからオレが遊ばれてたのかよ」
仲の良い兄弟なんだろうなぁ。
揃って嬉しそうに胸を張るところが、なんとも言えず可愛い。
彼らも帰るところだったんだろう、遠くから呼ぶご両親の声に顔を上げ…あ、また意味ありげにお母さんに頭を下げられた。
…もうあの時のことは忘れて下さい。
「じゃあね、二人共。雨が酷いから気を付けて帰って」
「うん!」
「…ねーちゃん達は帰らないの?」
「傘がねぇからな。雨が止むまで休憩中さ」
肩を竦めるラビをじっと見上げていた兄弟が、きょとんと顔を見合わす。
すると小さな手が、持っていた子供用の傘を差し出してきた。
「これ、貸してあげる」
「え?」
「でもそしたら、お前らが濡れるだろ」
「大丈夫だよ。おれはマークの傘で一緒に帰るから。にーちゃんも、ねーちゃんと一緒に使って」
弟君の傘を見せて笑う男の子は、しっかりお兄ちゃんの顔をしていた。
「貸すだけだからな。今度また遊ぶ時に返してくれればいいから!」
「あっ」
「ばいばい!」
小さな手で傘を押し付けられる。
思わず受け取ってしまえば、可愛らしい兄弟は手を繋いで走っていってしまった。
「次の約束事に利用するなんて、ちゃっかりしてんさ」
「借りてしまっていいのかな…これ」
「いいんじゃね?親も了承済みっぽいし」
確かに何も言ってこないところ、大丈夫そうだけど…色々とあのご両親には誤解されてるようで恥ずかしい。
「折角のチビ達の好意を無碍にもできねぇしさ。今度また来ればいいさ」
「…そうだね」
"今度"があるなら。
…それも、いいかな。