第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
話すだけにしては近過ぎる距離。
甘い束縛のようなラビの声に捉えられて、何故だか体は動けない。
私の顔に影を落とすラビに、生まれ出た雰囲気に、呑まれる。
お互いの唇が、重なった。
「あーッ!」
否、重なる瞬間。
甲高い声に遮られて、同時に驚きで体が跳ねた。
「にーちゃんがねーちゃんとイチャついてる!」
「イチャついてるー!」
「コラッ!止めなさいあんた達ッ」
私達を指差して騒いでいたのは、触れ合いコーナーで知り合った子供達だった。
キャッキャと面白そうに騒ぐ彼らに悪意はないんだろうけど…うん。
窘めるご両親の気遣いが、尚のこと胸に痛い。
や、悪いのは私達なんで…その続きをどうぞみたいな顔で頭下げるのは止めて下さいごめんなさい。
「ぁ、あはは…」
「はぁあ…ったく」
腕を引かれ去っていく子供達を苦笑混じりに見送っていると、大袈裟なまでに溜息を零したラビが肩をガクリと落とした。
「空気読めよなぁ、あいつら」
「何言ってるの。あの子達は何も悪くないでしょ」
「ちぇ」
こちらもこちらで、不満そうに唇を尖らせるラビを窘める。
此処、公共の場だから。
そんな所でイチャつく方が悪いから。
大体、こんな所でキスしようとするラビが悪い。
こういうのはTPOが大事なんだから。
確かに雰囲気は悪くないけど、どうせならもっと人目のない───…
「…?」
…あれ?
私、なんで普通に受け入れているんだろ。
私今、ラビに、キス、されそうになったんだよ、ね?
ハタと思い留まると、当たり前に受け入れていた自分に思考が止まる。