第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
「ね、ラビ。じゃあ私は?」
「南?」
「うん。私ならどの魚に似てると思う?」
「南かぁ…う〜ん…」
観察眼の高いラビは、私をどんなふうに見てくれているんだろう。
純粋に興味が湧いて問い掛ければ、ラビは狭い展示会の中のとある場所で止まった。
奥張った造りの水槽の中は、ほんのりとブルーの光にライトアップされている。
その中でゆったりと浮遊するように泳いでいるのは、半透明の生き物。
「あれかな」
「あれって…クラゲ?」
泳ぐと言うより漂っているような、凡そ感情なんて持ち合わせていないんじゃないかと思える生き物。
クラゲ
海月。
水母。
…なんでクラゲ?
「………」
「なんさその渋い顔」
「クラゲ可愛くない…」
リナリーとか、可愛いグッピーで例えてたのに。
なんで私はクラゲなの。
ミランダさんのチンアナゴだって、水族館で人気の生き物なのに。
何故私はクラゲ。
顔も渋くなるでしょ。
「何言ってんさ、綺麗だろ。クラゲは一部じゃ鑑賞人気あるんだぜ」
「何一部って…コアってこと。マニアックってこと。一般受けはしないってこと?波に攫われるだけの感情もない女ってことですか」
「ンな僻むなさ…なんか罪悪感出るから」
僻みもするでしょ。
私のこと好きなんて言う癖に、例えがクラゲだなんて。
褒められてる気がまるでしない。
ブルーライトの水槽の前で項垂れれば、ラビは罰が悪そうに肩を竦めた。
「知ってるさ?南。クラゲって体の95%が水分で出来てるんだぜ」
「ぶよぶよの体って言いたいの…」
「違ぇから。話聞けって」
渋々項垂れた顔を上げれば、ラビの翡翠色の瞳がブルーの光と混じり合って見えた。
普段見たことのない鮮やかな色合いに、思わず目が止まる。
「それだけ繊維も少ないクラゲは、栄養価も低い生き物でさ。食物連鎖のピラミッドにさえ含まれない、他の生き物の餌にもなり得ない存在だって思われていたんさ」
「残飯以下ってこと」
「でも食われる心配がないなら、繁殖能力のあるクラゲが海を覆い尽くしても可笑しくねぇだろ?でも海はクラゲで埋もれてはいない」
何が言いたいのか、いまいちわからない。
でも確かにラビの言う通りだと、気付けば興味を持って耳を傾けていた。