第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
────なんて心配は、すぐに杞憂となった。
「見ろよ南。こいつ、ユウにそっくりと思わねぇ?」
「ベタ?すっごく綺麗な魚だけど…青いヒレが長くて綺麗。神田に似てるかなぁ…」
「こいつは別名"闘魚"って言うんだぜ。見た目に反して気性が荒くて喧嘩っ早い。ユウみたいだろ?」
「何それ怖い」
確か何処かの実業団の寄付で建てられたらしい水族館は、本当に小規模な娯楽施設だった。
イルカショーなんてものはないし、珍しい魚はいるけどマンタのような大きな生き物はそういない。
照明で展示された小さな水槽を覗くばかりだけど、ラビが隣にいるだけであっという間に時間は過ぎた。
初めて一緒にイノセンス探索任務に赴いた時も思ったけど、ラビって本当に物知りだよね。
生物学にも長けているらしく、水槽の脇の説明書を読まなくてもスラスラと魚の実態を説明してくれる。
「この魚はアレンさな〜。でっかくなるとなんでも丸呑みする肉食魚になるし」
「そうなの?白い鱗に赤い眼だから、儚げな感じするけど」
「アルビノ種だからな。本来は黒い鱗に赤模様の猛々しい奴さ」
今度はオスカーの稚魚を見ながら、教団の誰それに似ていると見立ててくる。
それがなんとも妙に合っていて、つい面白くて聞き込んでしまう。
臆病者の隠れチンアナゴはミランダさん。
働き者の掃除屋プレコはリーバー班長。
太陽の魚である優しき大きな体のマンボウはマリ。
外見的特徴だけじゃなく、中身も妙に合ってるから。
ラビの話を聞いていると、皆のことをよく見てるなぁって思う。
観察好きなところもあるんだろうけど、それだけ人が好きなんだろうな、きっと。
深海魚コーナーでは大きな体を縮めてビクついて、触れ合いコーナーでは子供相手にウニやナマコが如何に見た目に反して美味しいか力説して。
そうして色んな話を聞きながら小さな展示会を見回るだけで、ラビには沢山笑わされた。
気付けば繋いだ手の力は抜けていて、伝わる体温の心地良さだけを感じるようになっていた。
それもきっと、ラビの持つ不思議な魅力の一つだと思う。