第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
「これじゃ外で飯は食えそうにないさね…」
「…うん…」
「取り敢えずまだ小降りだし、濡れる前にどっか手近な店見つけようぜ」
互いに傘は持って来てない。
オレは別に濡れても構わないけど、南を濡れさせる訳にはいかない。
こんな格好してる今日は特に。
南の頭に手を翳しつつ提案すれば、乗り気じゃないものの南も頷いてくれた。
けど。
サァァァァ
「雨、止む気配ねーな」
「うん…」
「小降りだけど、あん中歩いたら確実に濡れるし。途中で傘買ってく?」
「うん…」
「でもま、そんなに寒くはないから助かったよなぁ」
「うん…」
さっきから覇気のない声で相槌を打ってくる南を前に、食後に喉に通していた紅茶をカタリと皿に置いた。
「ンな落ち込むなって」
「…だって…」
軽く励ましたつもりだったけど、南には逆効果だったらしい。
どんよりと更に重い空気で肩を落とした。
「折角色々練ったのに…」
南が落ち込んでいるのは、この小降りながらも一向に止まない雨が原因だった。
森林浴だったりBBQだったり、いつも教団という柵の中にこもってるオレを外に連れ出したかったらしい南のプランは物の見事に壊されたからだ。
オレ的にはこうして向かい合って南とゆっくり飯食えてるだけで充分なんだけど…意気込んでたからこそ、南のショックは大きかったらしい。
その意気込みだけで充分なんだけどなぁ…でもその気持ちはわからなくもないから、下手なことは言えない。
「期待外れでごめんね…」
「全然。お陰で美味い店も見つけられたし」
「此処、何処にでもあるファミリーレストランだよ」
「オレには美味かったからいーの」
それは確かだ、世辞じゃない。
南と一緒に飯食えるだけ、オレには充分美味いんさ。
…こんなふうにまた二人で外食できるかもわかんねぇし。
南がリーバーのもんになっちまったら、この関係もそれまでだもんな…。