第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
ホントなんだったんさアレ…。
「ラビ?何ボーッとしてるの。行くよ」
「おー」
急かす南の姿を前に、止まっていた足を動かす。
教団を出て街へ下りても、なんとなく引っ掛かっていたままだったリーバーの言葉は頭の隅に追いやった。
折角南とのデートだし、余計なことは一旦リセットさせるか。
「それで、これから何処行くんさ?」
「うん。まずは、ちょっと早めだけどランチにしようかと思って。ラビ、焼肉好きでしょ?」
「お、肉!いいさね」
オレの好みをばっちり把握してる南につい笑顔も綻ぶけれど、ふと隣を歩くその姿に目は止まる。
そんな洒落た格好してるのに、焼肉なんか行ったら臭い付いちまうんじゃ…女ってそういうの嫌うだろ、確か。
「いいんさ?その…服、」
「服?何が?」
「臭いとか…気になんねぇ?」
「焼肉の?別に気にならないよ。それも視野に入れて着てきた服だし」
だから気にしないで、と笑う南の笑顔に、また胸が高鳴る。
「今日はラビの癒しプランなんだから。ラビはただ楽しんでいればいいの」
オレの為にって笑う南の笑顔は化粧で一層輝いていたけど…それだけじゃない、説明の付かない眩しさを感じて。
熱くなりそうな顔を片手で軽く押さえて、視線から外した。
…なんさオレ、初恋男子じゃあるまいし。
キョドってんなよな…。
「じゃあ焼肉食いたい」
「それがね、いい所があるんだ。外でバーベキューができて、周りに緑も多いから空気も美味しい───」
───ポツ、
弾む南の声を止めたのは、小さな小さな水滴だった。
思わず二人で空を見上げる。
ポツリポツリと微かに肌を濡らすのは、薄い雨雲から降り落ちる雨水。
「…うそ」
「マジか…」
思わず二人同時に唸ってしまった。
今日の天候、雨なんて聞いてないさ…。