第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
「南っ」
呼びかけた声は、いつもの明るい調子で出せた。
ぱっとこちらに向く南とリーバーの視線を受け止めて、ひらりと片手を振る。
「遅いから迎えに来たさ~」
「ごめんラビ…!時間過ぎてた!?」
「なんの為の時計さ、それ」
「南は悪くない。俺が呼び止めたんだ」
「はんちょは仕事だろ?休日まで南を縛んなよなぁ」
そうでなくても、南の心を縛れてるって言うのに。
こんな日くらい、オレに独占させろよ。
「悪かったよ。二人で出掛けるんだろ?日頃の疲れを払って、楽しんで来いよ」
「もっちろん。折角南からお誘い貰ったんだし、目一杯楽しんでくるさ♪」
「それはそう、だけど…」
にんまり笑って、いつもの調子で南の肩に手を回す。
ほら、やればできるじゃん流石オレ。
我ながら自分に惚れ惚れしながら、恥ずかしそうに身を捩る南を見れば、ぱちりと目が合った。
と、すぐに逸らされる。
ほんのりと赤く染まった頬はチークだけのもんなのか図り兼ねたけど、艶やかなグロスの乗った唇とか、伏せがちな長い睫毛とか、後れ毛混じる細い首筋とか。
前に一度は見たことがあるなずなのに。
オレの記憶には確かに残ってるものなのに。
なんだかいつも以上に胸が高鳴った。
美女を見つけた時のストライクに近いけど、それとはほんの少し違う。
じわじわと高まる鼓動。
なんつーか…すげぇ綺麗なんだけど。
「ラビ、近い」
「あ、うん…」
力なく押しやってくる南の手に従って、身を退く。
思わずガン見しちまった。
「じゃあ俺はもう行くから。ラビ、南のこと頼んだぞ」
「あ、おう」
ぽんとリーバーに肩を叩かれてはっとする。
見れば、ほとんど同じ背丈のリーバーの顔が、すぐ傍にあって。
こっちの方が近ぇ。
って思う前に、
「泣かせたら承知しないからな」
小さな声でぼそりとそう囁かれた。
「…ぉぅ…?」
や、泣かせるつもりはねぇけど…なんでこのタイミングでそんな台詞出てくるんさ?
言いたいことだけ言ってすぐに背を向けるリーバーに、それ以上声は掛けられなくて意図は謎のまま。
…一体なんなんさ。