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科学班の恋【D.Gray-man】

第84章 オレの好きなひと。《ラビED》



でも。
あの強い波のように渦巻く哀しみの中で起こった悲劇に打ち拉がれるより、守りたいものを見つけたから。
ヒーローのような強さを持っていながら、子供のような弱い心も抱えている、あのひとを。

そう自覚すれば、わからなくなっていた班長への思いは、ようやく答えを出すことができた。



「一つ、聞いてもいいか?」

「はい」

「その姿は…ラビの為に?」



その問いの意味は、聞かなくてもわかった。
声は出さずに、一度だけ頷く。



「そうか。…心の整理は、できたみたいだな」

「リーバー班長…私、」

「大丈夫だ。俺もそこまで鈍感じゃない」



亡くなった人達ばかりを思って、振り返っていた。
でも今の私の目は、未来を歩めるひとを見つめている。
でもそれは、班長とのけじめもつけなきゃいけないということで。

こんな所で話す内容じゃないと思ったけど、このタイミングでしか言えないと思った言葉は、やんわりと止められた。



「俺と南の道は違った。ただそれだけだ」

「………」

「そんな顔するなよ。言っただろ、お前の科学班での立場を俺との関係で壊したくない。俺にとって南はこれからも大事な部下の一人だ。それは変わらない」



変わらない表情で、変わらない仕草で、私の頭に触れようとした班長の手が止まる。
そのままぽんと軽く触れたのは、私の肩。



「心の整理ができたなら、前に進めるようになったなら、それでいい」



離れていく班長の掌の体温。
優しい声が胸をじんと響かせる。

嬉しさより、一抹の淋しさを感じて。

どこまでも私を立てて気遣ってくれる班長は、やっぱりどこまでも大人で。
こんな素敵な人の想いを頂けた私は、なんて贅沢者なんだろうと思った。

そしてそこに応えることができない哀しさもあって。
半ば諦めた片想いをしていたから、失くした訳じゃない。
それ以上に欲しいものができたから、欲しいひとができたから。
その為には、手放さないといけないものもある。

仕事の眠気覚ましによく飲んでいたコーヒーのように、深くて苦くて重い。
そんな痛みだ。



───でも覚悟していたものだから。

噛み締めて、味わって、ちゃんと呑み込まないと。
それがけじめだ。









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