第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
「やっと辿り着いた…」
どうにか人目に付かないように進んで、やっと見えてきた大きな門の出口。
ほっと息を零しつつ、足は自然と速まる。
待ち合わせの5分前だから、丁度良い時間帯。
ラビはもういるのかな。
腕時計の針を確かめながら歩いていたから、目線は手首にあって。
だから、その人の存在に気付くのが遅れてしまった。
どん、と肩がぶつかる。
「わ…ッ」
「っ」
思わず前のめりに傾く体を、誰かの腕で支えられた。
「す、すみませ…」
───あ。
「大丈夫か?」
見上げた先には薄いグレーの瞳。
一瞬思考が固まる。
其処に立っていたのは、白衣姿のリーバー班長だった。
片手にファイルを持っているところ、仕事中だったんだろう。
…前にもこんなことなかったっけ。
「南?どこか痛めたか?」
「ぃ、いえ…大丈夫、です」
「ならいいけど。気を付けろよ、角を曲がる時は前を見てろ」
「は、はい。すみませんっ」
ぶつかったのは完全に私の所為だ。
慌てて体を起こして、頭を下げる。
うう、班長の前でヘマをしてしまった…。
「班長は、司令室にでも出向くんですか?」
「ああ。室長に今日こそ処理させないといけない書類があってな」
「はは…お疲れ様です」
軽く持ち上げるファイルには、ぎっしりと詰まった書類の束が見える。
相変わらずコムイ室長の尻拭いばかりされている班長は、朝から若干疲れた顔をしていた。
本当、お疲れ様です。
「南は、今日休みだったか。出掛ける用事があったから、申請してたんだな」
「ぁ…ぃぇ……はい」
リーバー班長の言う通りだ、間違ってない。
でもなんとなく、休日を取った理由が遊びなんて、仕事している上司に後ろめたさを感じてしまって中々頷けなかった。
「前も思ったんだが、南は仕事の時とイメージが大きく変わるんだな。そういう格好してると」
「へ、変、ですかね…」
「いいや。綺麗だと思う」
ドキリとする。
躊躇いもなく褒めてくれる班長の言葉は、滅多に聞けるものじゃなくて。
そして、その声色が凄く優しいものだったから。
後ろめたさで中々合わせられなかった視線を上げれば、声と同じに優しい瞳と目が合った。