第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
ラビへの想いを自覚したのは、崩壊した第五研究所で彼の涙姿を見た時だった。
私や他科学班の皆が死んだと思い込んで、一度蓋をした哀しみを溢れさせるかのように。
体を震わせて、涙声で悔いるように謝ってきた。
あの時のラビの感情をそのまま形にした涙は、とても綺麗で。
そして、誰にも見せたくないと思った。
私の為に流してくれる涙を、独り占めしたいと思った。
守ってあげたいって。
大事にしたいって。
あの時に自覚したんだ。
ああ、私はこのひとが好きなんだ。
「…ケバ…くない、よね…?」
化粧鏡の中に写る自分の顔をまじまじと凝視する。
以前ラビと出掛けた時のようにナチュラルメイクに仕上げたけれど、なんだかちょっぴり不安で色んな角度から確かめる。
目の下の隈はばっちり消えているし。
チークもルージュも濃過ぎず、幼稚には見えない色合いだし。
リキッドとマスカラで縁取った目元は、リナリー程までとはいかないけれどぱっちり印象の残る瞳を作れた。
前回はシンプルなワンピース姿だったけど、今回は春先じゃなく秋だから、少し厚めのトップス。
ワインレッドの七部袖のニットセーターに、下は膝丈のグレーのチェック柄タイトスカート。
お腹のところでポイントとなる、チェックのリボンがちょっぴり甘い。
だからショートブーツとバックは黒で統一して引き締める。
髪は緩く巻いてから、後れ毛とエアリー感を忘れずに後ろでさっくり一つに結ぶ。
小さめの花のピアスで耳元を飾って、ネイルはできなかったけど爪先まで綺麗に整えた。
「き、気合い入り過ぎてないよ、ね?」
今度は姿見の前で自分の姿を凝視する。
気合いなんて見えちゃったら恥ずかしいし…でも、折角ラビと二人で出掛けられるんだから。
その時くらいは、綺麗な私でいたい。
年上好みなラビだから、子供過ぎないように注意しながら着飾った。
ラビ好みの格好でいられてるかなぁ…。
前日から悩みに悩んでいたから、今更後悔もないけど。
今度は時間に余裕を持って部屋を出る。
焦って走って、崩れたスタイルで行きたくないし。
「天気、晴れるといいけど…」
窓から見える空は快晴と呼ぶには不安な色をしていて、ちょっぴり胸騒ぎがした。