第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
「南」
「?」
「触れてもいいか?」
真面目な声で問い掛けてくるリーバー班長は、あの時と変わっていない。
異性に触れられることを怖がっていた、小さな私への気遣い。
くすりと、口元が緩む。
「もう、聞かなくてもいいですよ」
そういうところが、きっと律儀な班長らしさなんだろうけど。
許可なんて必要ない。
だって私の見ていたい人は、触れていたい人は、この人だから。
だから気遣いなんて不要だと、大丈夫だと、そんな意味を込めて笑って返す。
すると、班長の顔が近付いて───…あ。
「っ」
触れるって、そういう意味だったんだ。
気付いた時には、遅かった。
反射的に瞑った瞼に視界は閉ざされる。
見えない中で感じたのは、額に触れる柔らかい何か。
程なくして離れる体温に、目を瞬く。
い、今…おでこに、キス、された?
「はんちょ…」
「聞かなくてもいいんだろ?」
頬を包む大きな手。
高い班長の背が屈んで、私の顔に影を落とす。
これって、あの、
なんて聞く暇もなく。
今度こそその熱を、結んだ唇に感じた。
「っ───」
キス、されてる。
「…やっと触れられた」
ゆっくりと顔を離しながら、微笑む班長の顔が…班長じゃ、なくて。
「こうして触れられるんだな」
いつもの知っている、上司の顔なんて、どこにもなくて。
「っ…ぅ、」
「南?」
どう、しよう。
顔が凄く、熱い。
心臓が、煩い。
「顔、真っ赤だぞ」
「い、言わないで下さい…っこんな、寝起きの顔、なのに…っこんな、」
そういえばそうだ。
さっきまで寝落ちてた洗ってもいない顔で、髪も、きっとぼさぼさで。
想い焦がれていた人との初めてのキスが、こんな、みっともない格好でだなんて…!