第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
こほん、と改めるような班長の咳払いに、つられて姿勢が伸びる。
時計の指針の音さえ聞こえる程の静寂。
…違う、それだけ神経が過敏になってる。
緊張してるんだ。
目の前には見慣れた上司の姿があって、なのに全く違う人のようにも見えた。
交わる視線に、ふと目元が和らぐ。
「───南が好きだ」
それは呆気なく私の心に落ちてきた。
「部下でも仲間でもない、一人の女性として俺は南のことを見てる。…俺のことも、一人の男として見て欲しい」
リーバー班長の想いは、もう知っていたはずなのに。
その単語一つ一つがすとんと落ちて胸に何かを溜めていく。
まるで溢れる波のように、目頭がじんと熱くなった。
「はい…私も、ずっと、リーバー班長のことが…好き、でした」
…あれ。
わかってた答えなのに。
ラビに伝えた時のように、すんなりと口をついて出てくれない。
声が、震える。
「でしたって。過去形なのか?」
「…だい、すきです…」
駄目だ。
どうしたって震える。
空気を和らげるように、班長が笑ってくれているのに。
どうしよう。
泣きそうだ。
ずっとずっと想い続けていた人に、応えて貰えることが。
ずっとずっと焦がれていた人に、私を見て貰えることが。
泣きたくなる程、嬉しいなんて。
「南…」
「ごめ、なさ…嬉しくて…泣きそう、で」
「泣くなよ、このくらいで」
「このくらいじゃないです…私には、大きいことなんです…」
声に出して認めると、目頭はもっと熱くなった。
視界が滲む。
声が震える。
頭に置かれた大きな手が、くしゃりとひと撫でしてくれた。
「そうか…そうだよな。俺にも大きなことだった」
「…過去形、なんですか…」
「はは、悪い。大きなことだ」
ひとつ笑って、班長の手が私の目尻に触れる。
溢れる程ではないけれど、視界を滲ませるには充分な涙を、掬うような優しい仕草で。