第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
「お前が話せるようになるまでって、できた大人みたいな面して踏みとどまったことが沢山ある。…けどあれは、できた大人なんかじゃない。ただの俺の見栄だった。言わないと、話さないと、伝わらないことは沢山あるのにな」
腕を掴んでいた手が緩む。
そのまま下るリーバー班長の手が、触れた私の指先を柔く握った。
「今からでもいいなら、俺は、南のことが知りたい。過去も、未来も、お前の歩く道に、俺も立っていたい」
柔く握られていただけの手に、微かに力がこもる。
「躓きそうになったら、いつでも手を引けるように」
…あの時と同じだ。
揺れる船内のベッドの上で、千切れそうな細い糸で保っていた強がり。
そんな私に、やんわりと温かい言葉をかけて糸を解いてくれた。
崩れ落ちそうになるならいくらでも受け止めるから、と言って。
心だけで泣くなと、弱さを漏らすことを肯定してくれた。
「…握っていて下さい」
そっと、その手を握り返す。
「私の、ずっと見ていたい人は、リーバー班長です」
見上げた先。
僅かに見開く、感情の色が見えるその瞳。
そこに誰よりも映して欲しかった。
誰よりも私を見ていて欲しかった。
だって、
「私は、リーバー班長のことが───」
「待て」
え?
告げようとした言葉が止められる。
なんで、と戸惑う前に握られた手を引かれた。
「そこから先は俺に言わせてくれ。全部南に言わせたんじゃ、格好がつかないだろ?」
指先で頬を掻きながら、罰が悪そうな顔で笑う。
「前も勢い任せの告白だったしな」
その口から"告白"とはっきり述べられたことに、どきりとした。