第23章 声
段々とはっきり聞こえてくる音は、まるで忍び寄ってくるような錯覚に陥る。
なんで私に聞こえて、ラビに聞こえないのか。
わからないけど、これはきっとAKUMAじゃない。
そんな不確かな思いはあった。
でも心霊現象を嫌うラビに、そんなこと言えない。
伝えれば絶対に怖がるだろうし、何より恐怖が伝染してしまうのが嫌だ。
二人で怖がってしまえば、あの"声"に捕まってしまう。
そんな気がした。
───くすくす、
聞こえない、聞こえない。
頭を振って届いた風の音を掻き消す。
ここはあれだ、えーっと。
念仏でも頭の中で唱えたら消えるかもしれない!
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!
……ヨーロッパの霊に、仏教って通用するのかな。
化学を扱う仕事をしてるから、心霊現象なんてつい正体を暴きたくなるけど。
ごめんなさい、もう無闇に好奇心なんて持たないようにします。
イノセンス以外だったら、下手にその場を荒らさないようにしますから。
だからどうか化けて出てこないで下さい…!
「南、」
「へ?」
「さっきから力入り過ぎてんだけど」
繋いだ手を軽く引っ張られる。
無意識にラビと繋いでいた手に力が入ってたらしい。
しまった、念仏唱え過ぎた。
「ご、ごめんっ」
申し訳なくて慌てて手を離す。
ぱっと離れる手に、暗闇の中でラビが振り返る動作が見えた。
「どうしたんさ、さっきから。変に挙動不審だけど」
…やっぱり。
任務遂行中のエクソシストに、その気配を悟られないようにするのは無理だったらしい。
「いやぁ…あはははは」
「笑って誤魔化すの禁止な」
表情は見えないけど声でわかる。
多分、むすっとした顔してるんだろうなぁ。
でもごめん、無理。
言いたくない。
変な笑い声が聞こえるんですとか。
私がラビだったら、絶対言って欲しくない。