第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
なんでそんなこと口走ってしまったのか。
今更、自問自答する気もなかった。
「ラビのところって…」
「俺が傍にいて安心するなら、傍にいればいい。だから此処にいろ」
「は、班長?」
戸惑う南の腕を掴む。
デジャヴだ。
あの時も、こうしてラビの処へ向かう南を引き止めた。
あの時から始まったんだ。
初めて自覚した、南への想いは。
「何、言って、」
自分でも変なことを言っているのは充分自覚してる。
だがあの時は、引き止められなかった。
ラビの処へ出向いて、結果泣き出しそうな顔で一人佇む南を前にしても、何も聞けなかった。
それは南自身が抱えた問題だから、俺は介入できない。
そうやって呑み込んできた思いは幾つもある。
だから。
「マービン」
「?」
「タップ、ハスキン、」
「班長…?」
「お前が、あいつらのことを思って泣かないようになったら、俺も踏み出すと決めていた」
今度は、呑み込まない。
「逝った者達を思い出して笑えるようになったら、もう待たないと決めた」
遠慮がちに退いていた南の体が止まる。
戸惑い見上げる視線が交わる。
ラビに比べれば、行動力に欠ける。
なんでも今一歩遅くて、後悔は常にあった。
それが俺の短所であり長所だと、コムイ室長やジジは言った。
俺自身、何が良いのかわからない。
いい歳して情けない、と思うことも沢山ある。
だからこそだ。
今更、菓子を強請る子供には戻れない。
大人になればなる程、背負わなきゃならないものは増えて、振る舞わなきゃいけない立場も重くなる。
ただ追い掛けたいものだけを見て、我武者羅に走っていた頃とは違う。
だからこそ。
「今度こそ、南の返事が欲しい」
ただひとつだけ、なり振り構わず求めていいものがあるなら。
それはお前なんだ。