第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
「…南が造ったのか?」
「はい。ジョニーに少し手伝ってもらったんですけど…」
「見せてみろ」
「あ、はいっ」
資料を踏まないようにして、南の下に歩み寄る。
ざっとだが一通り目を通せば、手渡されたゴーレムは以前のラビのものと大差ない出来に思えた。
ゴーレム造りが得意なのはジョニーだ。
その的確な指示のお陰だろう、エクソシスト用としては申し分なさそうだった。
「うん。悪くないな」
「本当ですかっ」
「最近徹夜までして何してるかと思えば、"これ"だったのか」
「ぁ、あはは…でもっ任務で命を張ってるラビだから、ちゃんとしたゴーレムを使わせたくて。会心の出来ですっ」
両手で拳を握って嬉しそうに喜ぶ南は、俺の好きな笑顔を浮かべている。
なのにさっきとはまるで違う感情が浮かぶ。
それは、相手がラビだからか?
そんな馬鹿げたことを尋ねそうになって、手早くゴーレムを返した。
南は科学班として真面目な仕事人間だ。
誰にだって真摯に向き合う奴だろ。
…馬鹿馬鹿しい。
「リーバー班長のOKが貰えたので、これ、ラビに渡してもいいですか?明日任務に出るって言っていたので」
「ああ」
「じゃあ…っ」
ぱっと明るく華やぐ南の顔。
白衣のポケットに電源を切ったゴーレムを入れると、喜び勇んでデスクへと向かう。
周りに散らばっている資料の片付けも忘れたかのように、目の前の"それ"しか見えていない。
時刻は20時半過ぎ。
非番ならエクソシストは食堂か浴場か談話室か。
ラビならまた、一人で本の虫になっている可能性もある。
もしかしたら自室にこもっているかもしれない。
其処へ、また、向かうのか。
…別に、否定する理由はない。
南は仕事をしているだけだ。
この時間帯だって、残業のようなもので。
"仕事じゃないから、残業とは別です。好きでするだけなので"
不意に思い出したのは、つい先程南が俺に告げたことだった。
言い聞かせようとしている心に、まるで影を落とすように。
違うと言いたいのに、否定できない。
馬鹿馬鹿しいと突っ撥ねたいのに、確信がない。