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科学班の恋【D.Gray-man】

第83章 私の好きなひと。《リーバーED》



「マービンに貰ったのか?それ」



一呼吸置いて、問い掛ける。
南の私物だとは知っていたが、元はマービンの物だったとは知らなかった。
あいつの柄じゃないもんな、そんなマスコット時計。



「貰ったんです。就職して1年経った時に。記念だって。だから、これは…マービンさんの私物だった訳じゃありません」



俺の視界から隠すように握り締めたまま、ぽそぽそと伝えてくる南の声量とは裏腹に曲げない意思があった。
南が何を危惧しているのか、わかっていた。



「そうだな。それはマービンの遺留品な訳じゃない。だからそう硬くなるな。…処分しろなんて言わねぇから」



南が恐れていたのは、恐らくそれだ。
逸らしていた視線が交わり、やはりそうだと悟る。

教団(ここ)で働いている者達は全て、聖戦の為に身を捧げている。
教団(ここ)での情報は当然外部には漏らせないし、退職するなら全ての記憶を抹消される。
聖戦で亡くなったならば───…その者の情報となるものは、全て抹消される。
遺留品も残らず全て。

南が恐れていたのは、その時計を処分されることだ。



「見てると思い出すのか?マービンのこと」



一呼吸置いて、南が頷く。



「…思い出すと辛いか?」



一呼吸置いて、南の首が横に振る。



「マービンさんに貰ったものも…タップや、ハスキンさん達に貰ったものも。そこに詰まっているのは、残業で寝潰れたり、飲み会で二日酔いになって班長に怒られたり、此処で慌しく過ごしていた日々で埋まっているから」

「あんまり良い思い出とは言えないな」

「でも、居心地が良かった。大変だったけど、その分沢山笑えていた。だから、辛くはないです」



握り締めていた南の手がそっと開く。
小さなひよこ型の、凡そマービンらしくない愛らしい時計。
それはきっと南の為に選んだ物だ。
そこにはあいつの、南への思いが在る。



「どれも、その人と過ごした時が詰まっているものだから。だから、全部新本部へ持っていきます。ジジさんのこの本も」



そう言って笑う南の表情は、儚いものではなかった。
消え入りそうな弱いものじゃない。
俺の好きな、南の笑顔だ。

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