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科学班の恋【D.Gray-man】

第83章 私の好きなひと。《リーバーED》



「それ、入団初期にやった羽根ペンじゃなかったか」



南やジョニーが教団に入団したての頃。
新人研究員に配布する事務用品が追いつかなくて、仕方なしにと貸した羽根ペンだ。
使い易いと言う南に、どうせ古いもんだったしやると言ってそのままだった。
譲った時点で結構年季の入っていた物だったから、てっきり廃棄処分されたとばかり思っていたが…まだ使われていたとは。



「これ、使い易いんです。手にも馴染むし、インクも滲まないし…だから愛用、してて…」



再び尻窄みする南の声。
かと思いきや、はぐらかすように資料の散らばったデスクを漁る。



「リーバー班長からだけじゃなく、ロブさんに貰ったものもありますよ…っこれ!この仕分け棚、凄く使い易くてっあっホラこっちはジジさんに貰った仕事ができる女の為の本!」

「それは捨てていい」



慌てる南の姿になんとなくほのぼのした空気を感じていたが、突き出された本には真顔に戻ってしまった。
なんだ「女性のテク100選」って。
本当にビジネス本かそれ、如何わしい題名にしか見えねぇぞ。



「い、いやですよ。折角貰った物なのに」

「道理でお前の私物整理が中々終わらない訳か…」



捨てられない、その私物の多さだな。

見るまで忘れていた、ほんの些細な物。
それでも一つ一つ大切に扱っている南の思いを感じると、無碍にはできなかった。



「この仮眠用マスクはジョニーから貰ったもので、こっちはリナリーから貰ったマグカップで、」

「一体何人から押し付けられてんだ」

「押し付けじゃないですよ、皆の優しさです。こっちのタイマーはマービンさんから───」



〝マービン〟

その名を口した途端、何度も尻窄みしていた声が完全に止まった。
ぷつりとラジオが切れるみたいに、南の声と表情が消える。
南の手に握られていた、黄色いひよこ型のタイマー式時計。
途切れた声はそのままに、ぎこちなく視線を逸らした南は両手でそれを握りしめた。
俺の視界から隠すように、まるで守るように。

…その気持ちは、わからなくもなかった。

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