第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
「おい、南。起きろ」
「…ん…」
「こんな所で寝るな、部屋に戻れ」
「んん~…」
細い肩に触れて声を掛けるも、中々起きる気配を見せない。
本当に寝付きの良い奴だな。
ロブの言う通り叩き起こすぞ。
「いい加減にしろよ、南」
「んー…あと、5ふん…」
「おい」
「むにゃ…」
「南」
「すー…」
「南ッ!」
「わぁっ!?」
いつまで経っても起きる素振りのない南に、とうとう最終手段に出た。
職場で飛ばすそれと同じ声を出せば、途端に兎のように跳ね起きる。
結果。
「は、はいぃ!」
「わ、馬鹿!」
敬礼混じりの南の肘や肩が周りの資料にぶつかって、忽ち均等を保っていたバランスが崩れる。
「え。」
敬礼の格好のまま見上げる南の顔に重なる、資料の山の影。
咄嗟に踏み出すと同時に、ドサドサと紙束の雪崩は中心にいた南を襲った。
「痛…っ……くない?」
「それは俺の台詞だ、全く…」
「え?…わ!?は、班長!?」
前にもこんなことなかったか。
何度目のデジャヴだ。
どうにか南と資料の雪崩の間に挟み込んだ自分の体。
お陰で南を雪崩は襲わなかったが、周りは一面散らばった資料の海。
俺の背中で受け止めたのは資料だけじゃなく、巻き込まれた俺の私物も白い海の中に垣間見えた。
折角まとめたってのに…また一からやり直しかよ…。
「ご、ごめんなさい!私、ま、まさか寝て…っ」
「お前は毎回、なんで資料の山の中で寝るんだ。見つけられねぇだろ」
「すみません!今すぐ仕事を…!」
「時計を見ろ。そして周りも見ろ。状況判断できてから動け」
青い顔でデスクに齧り付こうとする南を、声の圧で制する。
テンパって頭回ってなさそうな時には、とりあえず動きを止めるに限る。
「…誰もいない…」
「皆上がった。ここんとこ残業続きだったからな。南も昨日は徹夜だっただろ、これ片したら部屋に戻れ」
「そ、そうですよね。片付けますっあ!班長は手伝わなくていいですよ…!」
「俺の私物も混じってる。ついでだ」
「私物って…なんで…」
「引っ越し準備」
「あ…そっか」