第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
静まり返る研究室。
ロブの言うことが正しければ、山積みの資料の中には埋もれてる人がいるはず。
なのに寝息らしい寝息も聞こえず、焦りより不安が生じた。
段ボールを資料の束の隣に置いて、恐る恐る真上から覗き込む。
「…南?」
見えたのは資料の山の中心で、器用にデスクに突っ伏して静かに眠りこけている部下の一人。
予想通りの、このデスクの主だった。
寝息さえ聞こえない深い眠りで、固い机に横顔を押し付けている。
いつの間にこんな状態で寝落ちてたんだ…最悪、ロブにも気付かれなかったらどうするんだこいつは。
「寝付きが良過ぎだろ…」
ラビも言っていたが、本当にタチの悪い長所だと思う。
そのうち談話室とか食堂でも寝こけるんじゃないか。
…いや、実際にあったな。
食堂で盛大に飲み会をした後、そのままジョニーやラビ達とその場で朝を迎えたこと。
珍しく酒を飲み過ぎて記憶を飛ばしてしまったことを、多少なりとも後悔した。
酔い潰れた皆を南とジョニーに介抱させたことへの罪悪感じゃなく、ちゃんと周りに目を行き届かせられなかった自分自身にだ。
あの時に比べれば、此処で寝落ちてくれた方が遥かに安心はするけれど。
だがタイミングが悪い。
数日前にラビに変なことを言われてから、何かと視界の隅にチラつくようになったこいつの姿。
…南の甘さってなんだそれ。
お前が言うと変な意味にしか聞こえねぇんだよ。
絶対わざとだな、ラビの奴。
「…はぁ」
深い溜息を一つ。
こんな所でずっと寝かせる訳にもいかないと、積まれた資料を崩さないようにデスクの中心に手を伸ばした。