第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
「あれ?班長、まだ仕事するんですか?」
「仕事と言うより、身の回りの整理だな。だから俺に構わず上がっていいぞ。新研究室への調達物のリストも、明日作り直してくれればいい」
「いいんですか?」
「上司が優しい時は甘えた方が得だぞ、ロブ」
「はは、そうですね」
小物だけをまとめて一つ出来上がった段ボールの荷物を抱えながら、ロブに笑って返す。
ここ数日、科学班では残業日が続いていた。
新本部への引越し後には研究者の増員が行われるらしいが、それまではこの少ない人手でやりくりしないといけない。
残業慣れしてるロブでも、こうも連日遅くまで仕事をこなしていれば疲労も蓄積する。
少しは休ませてやらないとな。
「じゃあお言葉に甘えて、後は班長お願いします」
「ああ。資料はそこに置いてていいぞ。俺が片しとく」
「了解。あ、じゃあ"あれ"の片付けもついでにお願いします」
「…あれ?」
ってなんだ。
「あれですよ。叩き起こしてくれれば後は一人でどうにかできると思うんで」
「起こす?」
って誰をだ。
「班長、気付いてなかったんですか?まぁ、他の皆も気付いてないみたいでしたけど…あれじゃあ仕方ないですね」
苦笑混じりに白衣を脱ぎながらロブが指差す先。
高々と資料が山のように積まれている見知ったデスクに、嫌な予感がした。
デジャヴだぞ。
「おい待て、ロブ。あれってまさか…」
「限界が来たんでしょう。昨日も徹夜だったから。起こすのは偲びないと思って目を瞑ってました、許してやって下さい」
「いや、それは悪いとは思ってな」
「よかった!じゃあ後よろしくお願いします」
「待っ…!」
慌てて大声を上げそうになったが、そうなると起こしてしまうかもしれないと悟った頭がブレーキをかけた。
あの、資料の山積みの中にいる人物を。
その間にロブは笑顔で颯爽と研究室を去ってしまう。
此処の連中は、帰宅を認めれば皆突風みたいに帰るのが速い。
その場に取り残されたのは、段ボールを抱えたままの俺一人。
「…まさかだろ…」
デジャヴだ。