第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
温もりは儚くも一瞬。
「…じゃあ、また」
「おー」
軽く手を上げながら、もう片手は白衣のポッケに突っ込んで。
いつもの出で立ちで書庫室を後にする南を見送る。
"また"
その言葉は半分正確で、半分違う。
また次に南に会った時は、この気持ちは殺していないといけない。
そこに今のオレはもういない。
「はは…覚悟しててもきっついなー…」
わかりきってた答えだから、まだダメージは少ない方だけど。
それでも、きついもんはきつい。
でも南が変に同情をかけずに、はっきり答えを出してくれたから。
だからオレも終止符を打つことができた。
…好きな相手の名前を敢えて聞かなかったのは、最後の意地だけど。
だってやっぱ聞きたくないもんな。
わかってるけど、南の口から恋敵への告白なんて。
きちんと聞くなんていいながら、結局最後まで聞かなかった。
こういうところが、オレもまだまだ未熟だ。
「ま、こういうことに大人も子供もないか…」
義理も建前も。
本気で好きになった相手を手に入れられるなら、格好悪くたって、みっともなくたって、構わないと思えるから。
「なぁ、はんちょ」
書庫室を一歩踏み出してすぐさまUターン。
くるりと片足を軸に回って、大きな書庫室の門の隅に立つ背中に笑いかけた。
面白いくらいにビクつき跳ねる、オレと同じ身長の影。
にこにこと笑いかけてやれば、やがて気まずい面持ちのリーバーがゆっくりと振り返った。
「出歯亀かよ、趣味悪ィなー」
「っ別に、俺は…っこれを南に伝えに来ただけだ」
白々しい理由を、白衣のポッケから取り出す。
リーバーの手に握られていたのは、南から貰ったオレのゴーレム。
「お前のゴーレムだろ」
「じゃあなんでそんな所に突っ立ってんさ。南の後追えよ」
「…お前がそうして道塞いでなけりゃな」
「そりゃーはんちょが悪趣味なことしてっからさー」
「別に俺は、お前達の話なんて聞いてないぞ。そんな野暮なことする訳ないだろっ」
不服そうな顔で声を上げるリーバーの様子からすると、本当に会話は聞かなかったんだろう。
リーバーのそういうところ、本当馬鹿真面目っつーか…"らしい"と思う。