第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
「…あんがとな。ちゃんと、答えてくれて」
「…私もだよ。長い間、待たせてごめん」
「謝んなよ。南の片想いに比べたら、そんなに長くねぇだろ」
確かに、リーバー班長と比べたらラビとの出会いは短いけど…でも、時間なんて関係ないよ。
間違いなく、ラビは私の中で大きな存在だから。
「あ!じゃあさ、最後に南の抱き納めしていーさっ?」
不意にぱっと華やぐラビの声。
両腕を広げて、来い来いと手招きしてくるくしゃり顔の青年。
思わず目を丸くしてしまったけど、つられて口元は綻んだ。
こうして場の空気を一変してラビ色に変えてしまうのは、間違いなく彼の特技だと思う。
「何、抱き納めって」
「言葉通りさ。独り身の南を堪能できる最後のチャンスだし」
「わからないよ、最後なんて。ずっと独り身かもしれないし」
「その時はハグの延長お願いします」
「何それ」
笑ってラビの下へと歩み寄る。
茶化しながらも、二つの腕はそっと音もなく私の体を囲う。
今までラビに散々取られたスキンシップの中で、それは一番優しい抱擁だった。
最後かはわからないけれど、なんだか物寂しさを覚える。
そこには気付かないフリをして、そっと目を閉じた。
ゾンビ化事件から日は経ち、怪我も完治したラビからは嗅ぎ慣れた消毒液の臭いは感じない。
彼の明るい笑顔によく似合う、陽だまりのような温かい匂いがした。