第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
天井の高い書庫室。
ニューヨーク市立図書館を三つ合わせたような広い広い書庫室には、世界各国の文献や資料が集められている。
ぎっしりと高い棚に積まれた本の重量には圧巻される程だけど、今日はそんな気配は全くなかった。
「ラビ、いるかな…」
何故なら、ほとんどの棚から文献や資料は撤去されているから。
ゾンビ化事件が落ち着いて、再び稼働を始めた引っ越し作業。
大きな組織だから、荷物をまとめるだけでも一苦労。
だけどそれもやがては終わりが見えてきた。
研究室で同率に仕事に追われている科学班の引越し作業が、多分一番遅いんだろうな。
あそこが片付いたら、とうとう新本部へ移動かなぁ…。
「いないかも…」
人の気配はない。
これだけ文献が撤去されてるなら、ラビも此処にはいないかもしれない。
そんな予感を感じながら本棚の奥へと進んで行けば、誰もいないシンとした静寂の中。
「…ラビ?」
ぺらりと、紙を捲る微かな音がした。
本棚の奥のそれまた奥。
許可証がないと観覧できない本棚の手前の棚と棚の隙間。
其処に、よく見掛けていたその姿を見つけ出した。
「お。南じゃんか」
私の声に気付いたのか、気配に気付いたのか。
本棚の奥の窓際に腰を下ろして、膝の上で開いた分厚い文献を捲っていた手を止める。
隻眼が私を捉えると、にぱりといつもの人懐っこい笑みを浮かべた。
「今仕事中じゃねぇの?あ、資料でも探しに?」
「ううん。ラビを捜しに」
「へ?オレ?」
きょとんと自分を指差すラビに頷いて、足を進める。
ラビの周りには自分で集めたのか、幾つもの分厚い文献が積み重ねられていた。
まだ片付けの残り、あったんだ。
「ラビ、通信ゴーレムを提出し忘れてたでしょ」
「ゴーレム?ああ、そういやそんなことジョニーが言ってたっけ」
「もう、他の皆は出してくれてるのに。ラビのも貸して」
「? それならジョニーに渡したさ、今朝」
「うそ。見当たらなかったよ?」
「嘘じゃねーよ。出したって。オレ持ってねぇもん」
ラビへと差し出した手が行き場を失う。
その顔は嘘を言ってるようにも茶化してるようにも見えなかったけど、でも見なかったものは見なかった。
それじゃあ、ラビの通信ゴーレムは何処に?