第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
「もう…っ本当に勘弁して欲しい…っ」
逃げるように研究室を後にして、小走りに廊下を進む。
別に逢瀬に行く訳じゃない。
そんな疚しい気持ちなんてこれっぽっちもない。
なのに過剰反応する皆の所為で、顔は変に熱を持ってしまう。
だから尚の事、皆が反応するのかもしれないけど。
「違うって言ってるのに…」
違うことは、違う。
だって私の心は、そこへは向いていない。
私の想いが向いている先は───…今し方後にした、研究室の中に在る。
「…っ」
考えるだけで顔は熱を持つ。
だから、中々周りが静かになってくれないんだ。
…でも仕方ない。
騒ぎ立てる皆の中に混じらずとも、呆れた顔で見ているあの人の姿を見つけてしまうから。
その朝の澄み切った薄い空みたいな色の瞳が、私を見ているのかと思うと。
それだけで心臓は煩く騒いでしまう。
ゾンビ化事件から数週間。
あの事件のお陰で、気付けたこの想い。
幼い昔の私も、今の私と同じように認めて扱ってくれた、優しくて温かい人。
あの人が昔も今も、私の想い人だ。
仕事の上司で、人生の先輩で、同じ傷を負った、あの。
───リーバー班長が。