第83章 私の好きなひと。《リーバーED》
「ちょっとそこまで」
「そこまでって?」
「多分、書庫室かと」
「多分ってなんだ」
「…じゃあ書庫室で」
「じゃあってなんだ」
「…書庫室です」
「理由は?」
次々と背中に被さる声は、ロブさんのものだけじゃない。
研究室のドアノブに手を掛けたまま、思わず口を噤む。
普段はこんなにしつこく、矢継ぎ早に問い掛けてきたりなんかしない。
私が仕事で何処に出向こうが、理由なんていちいち聞かれたりもしない。
ゆっくりと振り返れば、案の定。
「理由はなんだ」
「答えられねぇのか?」
仕事の手を止め、私に目を向ける科学班の面々がいた。
「疚しいからだろ」
「そんな訳ないでしょ。ラビのゴーレムがないから、貰いに行くだけ。何処にいるかわからないから、多分書庫室って言ったんです」
「ふぅーん?」
「本当かぁ?」
「ラビをダシに逢瀬にでも行くんじゃねぇのか?」
「そんな訳ないでしょっ何言ってるんですかっ」
そんな気これっぽっちもないのに、丁度ラビに会いに行く予定だったから変に意識してしまう。
熱くなる顔に隠すように手の甲を頬に寄せれば、皆はその反応が不服だったらしい。
疑わしそうな顔が更に濃くなって、ガタリと席を立った。
「やっぱりか!オイ何処の馬の骨だそいつぁ!」
「まさか相手はエクソシストか!?やめとけお前にゃ高嶺の花だ!」
「結婚前提の話じゃねぇと俺は認めねぇからなッ!」
これだ。
もうあのゾンビ化事件が沈静化してから二週間は経ってるっていうのに、科学班の中では一向に落ち着いていない。
私に片想いの相手がいると思われて、そしてその恋を盛大に反対されている。
皆の剣幕からして、いつもみたいにネタにして面白がってる訳じゃないみたいだけど本当やめて下さいそういうの。
更に変に意識して…ってエクソシストが高嶺の花って何。
そんなのわかってるしいちいち立場を貶めないで下さい!
悲しくなるから!
「違うって言ってるでしょ!仕事だから!皆も仕事して下さい!じゃ!」
「あっおい南…!」
「待ちなさい不良娘!」
「子供は結婚してから作るんだぞォオオ!」
何が不良娘!
何が結婚!
いつから皆私の父親になったわけ!