第82章 誰が為に鐘は鳴る
「皆無事だよ、南。だから安心して」
「そうですよ。もう南さんを独りにはさせませんから」
やんわりと言葉を投げかけるジョニーとアレンもまた、優しい笑みを浮かばせて。
ぽろぽろと零れ落ちる涙の雫を、そっとアレンの指先が拭い取った。
「ガァ♪」
「…ひく……ティム…」
ぽちょん、と南の肩に落ちてきた丸いボディが頬擦りをしてくる。
ここ数週間の間にぐっと深まった仲のゴーレムの存在に、ようやく南は口元を僅かに綻ばせた。
マシュマロのようなティムキャンピーの体も、アレンの優しい指先も、確かな現実なのだ。
「うん…ありがとう」
未だ鼻先をぐずらせながらも明るい声で応える南に、やれやれとバクは安堵の溜息付いた。
「ようやく思い出せたか」
「…支部長が、ワクチンを増やしてくれたから…ありがとうございます」
「何、それくらい。元のワクチンの効果が的確だったお陰だ。これで君も立派な科学者だな」
「そ、そうかな…」
「もっと胸を張ればいい。君の守りたい人とやらも、これで守れたのだろう?」
「南の守りたい人?」
「っちょ、ちょっと支部長…!」
きょとんと首を傾げるジョニーに、今度は南が慌てふためく番だった。
「なんだ、別に恥ずかしがる動機でもないだろう。いい加減話したらどうだ」
「嫌ですよ!支部長って割と他人の噂話とか好きですよね!?」
「何を言う!好きだとも!」
「認めればいいってもんじゃないから!」
ふんぞり反るバクについ南の突っ込みも大きくなる。
のほほんと優しい笑みで見守っていたはずの科学班一同の顔が、忽ちに意地の悪いものへと変わった。
「お?なんだなんだ?」
「守りたい人ってもしかしてアレか〜?」
「アレ?アレなのか?」
「なんですかアレって…」
「おーアレンは知らねーよなー。南のアレだよアレ!」
「ち、ちょっと皆何言って…っ」
「「「トキメキ片想い!」」」
「わー…まだそのネタ引っ張ってんの…」
声を揃え満面の笑顔で言い切る彼らに、唯一同じ科学班のジョニーだけは苦笑いを浮かべた。
一体いつの話だと言いたくなるような、昔に皆で南をからかったネタだ。