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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



ジョニーの言葉に促されるまま、自身の体に視線を移す。
予想していた、アレンの団服を脱いだばかりの軽装ではなかった。
薄い患者服に白衣を上から羽織り、覗く腕や足や首などの皮膚には真っ白な包帯が巻いてある。
一目で誰もが頷くであろう、重傷者の姿だ。



「あ、あれ…?もしか、して…」

「思い出した〜?」



はっきりと自分の現状を知れば、じわりと錯覚する。
鎮静剤でも打たれたのか、麻痺して感覚のない指先で頬に触れた。



「婦長さんに病室に監禁されて…それで、確か…意識が…」

「あれだけの高熱を出して寝込めばな。時間の境がわからなくなっても仕方ない」

「再熱は…してないみたいですね。よかった」



ひたりと額に手を添えて安堵するアレンに、南はようやく現実と夢の境目に気付いた。



(そうだ…私、熱が下がって。婦長さんに外出許可を貰えたから、真っ先に科学班の引っ越しの手伝いに行って…)



しかし大人しくしていろと口煩く周りに言われ、結局ソファで休息を取りつつ本の栞の整理のような、小ぢんまりとした手伝いをしていた。
その合間に寝落ちてしまっていたらしい。



「それよりバク支部長、何またサボってんスか。引っ越しの手伝いに来たんでしょ?ならやることやって下さいよ」

「なッそれがこの事件を収束させた者への礼儀か!?」

「解決したのは南の作ったワクチンですから。支部長はその手伝いでしょ〜」

「ぐぬぬ…!あれくらい僕にも作れるわ!」


「はぁ〜…余計に騒がしくなった感じだなぁ…」



溜息をつくアレン越しに見渡せば、広い研究室には科学班とエクソシストだけではない、アジア支部の面子もちらほらと見て取れた。
誰もが見知った顔で、当たり前のように正常者として活動している。
あの血の滴る生肉に噛り付いていたジョニーでさえも、いつもの彼そのものだ。



「じ、じゃあ…っ」



これが夢でないのだとすれば。
ゾンビ化事件も夢でないのだとすれば。



「っ!(リーバー班長と、ラビ、はっ?)」

「南さん?」



咄嗟に腰を上げる。
ソファの上で忙しなく辺りを見渡すが、背の高い二人の姿は見当たらなかった。
不安が過ぎる。
最後に二人を見たのは、中庭の崩壊の中だ。
もしやあの崩壊で大きな怪我でも負ってしまったのか。

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