第22章 暗闇の中
「ラビって、凄いね」
「?」
ゆっくりと前を確認しながら、狭い通路を南の手を引き進む。
不意に掛けられた声は純粋に感心するもので、何が?と問い掛ける前に言葉を続けられた。
「これがラビじゃなかったら、絶対パニックになってた気がする」
「そうさ?」
「うん。まぁアレンだったら、イノセンスを失くすってこともないけど」
「…それは言わないで下さい」
確かにエクソシストがイノセンス失くすとか命綱失くすようなもんだけど…なんでかな、不思議とそう焦りはないんだよな。
アレンのような寄生型程じゃないけど、オレもイノセンスと心を通じ合わせてる身だからか。
多分そのうち手元に戻ってくるような、そんな漠然とした安心感があった。
「そういえば前もこんなことあったっけ」
「前?」
ふと思い出すように南が呟く。
「コムイ室長が作った初代コムリンが暴走して…教団内を停電させちゃったことあったでしょ」
「ああ、あれか」
南の言葉に、頭の棚から記憶を引っ張り出す。
前に科学班の仕事の過酷さに、仕事手伝い用ロボットとしてコムイが作った巨大な機械。
"コムリン1号"と命名されたそれは、ただのはた迷惑な暴走機械だった。
「急に真っ暗になったから、私は慌てたけど。ラビは冷静だった」
「そりゃ、あんなに大暴れするコムリンを見てれば停電くらい予想もつくさ」
「そう?」
「そうそう」
他愛ない話をしながら、思い出す。
あの頃はまだ南に対して恋愛感情ってもんはなくて、ただ気の知れた職場仲間って感じだった。
それが今は、こうしてじんわり感じる体温にさえ勝手に口元は緩む。
…人の気持ちって、不思議さ。