第22章 暗闇の中
「ラ、ラビ…其処にいる?」
「おー。とりあえず手ぇ出して」
不安げな南の声に、それ以上気持ちを煽らせないように平常心を持って声をかける。
こんな薄気味悪い地下で、道も閉ざされちゃ怖がらない方が無理だけど。
キキッ
「ひゃっ!?」
「ぶっ!」
南の声に向かって差し出した手は握られなかった。
代わりに小さな体が突進してくる。
足元を鼠かなんかが掠ったのか。
やっぱ怖いんだな、鼠が。
結構な勢いだったさ、腹痛ぇ。
「落ち着けって。鼠だろ、ただの」
「鼠ね…鼠。はいはい…」
ぽんぽんと、手探りに目の前の体の背中を優しく叩く。
納得するように呟きながら、それでも南の手はしっかりとオレの服を掴んで放さない。
「………」
辺りは真っ暗。
この距離で南の顔さえ見えないから、余計に肌で肌を感じるというか。
……やべぇな、これ。
「…ラビ?」
反応のないオレに不安げな南の声が掛かる。
普段は聞けない頼りなくオレを呼ぶ声や、くっ付いて離れない体は、やけにオレの心臓の音を掻き立てる。
…落ち着け、オレ。
今は任務中だから。
アレンにでもバレたら、十中八九怒られる。
「とりあえず暫くすれば目も多少は慣れるだろ。手、出して」
疾しい気持ちを振り払うように、明るい声を出して南の手を握る。
「離すなよ。逸れたら困るから」
「うん」
ぎゅっと握れば、小さな手が握り返してくる。
その体温をしっかりと感じながら、目を瞑って頭ん中の地図を思い描く。
確か、オレらは来た道を背に座ってたから───
「…こっちさ」
ゆっくりと目を開ければ、段々と慣れてきた目が朧気にだけど岩場の輪郭を浮かび上がらせる。
その一つ一つを確認しながら、オレは慎重に一歩踏み出した。