第82章 誰が為に鐘は鳴る
「アレ、ン?私がわかるの?こ、これ何本に見える?自分のことはっ?わかるっ?」
思わずしどろもどろに質問責めにしてしまう南に、アレンは首を傾げつつ三本指が立てられた手元を見つめた。
「椎名南さん、ですよね。それは三本に見えますけど…僕はアレン・ウォーカーです。忘れてなんかいませんよ」
戸惑いは残っているものの、しっかりとした口調。
普段なら気にも止めない、何気ないやり取りだ。
しかし意思疎通が叶っている会話のキャッチボールに、堪らず南は唇を噛み締めた。
「っ…」
「南さん?」
「アレェエン!!」
「わぁっ!?」
突進するかのように抱き着く南に、後ろ手を縛られたままのアレンは受け身を取ることもできない。
あたふたと顔を赤くしながら、抱き着く南の成すがままにされた。
「あっあっあのっ?南さんっ?状況が全く見えないんですが…!」
「ガァッ」
「ティム?な、なんだこれ。どうしたんだっ?」
「ガウッガァガウ」
「え?ゾンビ?…っそうだ!僕確か婦長さんに噛まれて…!」
ぐるぐると二人の頭上を回っていたティムキャンピーが、ぽちょんとアレンの周りを囲っていたバリケードに着地する。
その姿を見上げながら、アレンはようやく己の身に起きたことを理解した。
「確かソカロ元帥の攻撃にやられて…南さん!皆は!?」
「よかっ…リーバーはんちょ…私、やりました…!アレン戻せ、た…ッ」
「南さん!?聞いてます!?」
「これなら神田も戻せ…あ、もしかしてだから体が…!?」
「南さん!話が見えないんですって!聞いて下さい!」
物事は良い方へと好転したが、突然の出来事に互いにコミュニケーションは取れても意思疎通はできていない。
そんな二人の姿に、ぷぅとティムキャンピーは呆れ混じりの溜息をついた。
ぐらりと足場が揺れたのは、その直後。