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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「───支部長!早く!」

「ま、待て、落ち着け椎名っそう焦らずともちゃんと手伝うぞ…!」

「そういう問題じゃないんですっ早くワクチンを完成させないと、またいつ襲撃に合うか…ッ」



バタバタと慌ただしく走る足音が二つ。
地下のラボへと通じる暗い通路を走り抜ける。



「し、しかし大半のゾンビは瓦礫の外なのだろうっ?普通の人間は空腹で倒れているようだし、そう心配することは…」

「"全員"じゃないんですよッ」

「全員じゃない?」

「教団内部にも厄介なゾンビはまだ───」



コツ、



「!」

「オブッ!?」



前方を走っていた南の足が止まる。
急激な停止に、後方を走っていたバクの顔面が彼女の背に衝突した。



「な、なんだ急に…」

「…っ支部長、逃げて」

「っ?」



鼻を擦りながら呼びかけようとしたバクの手首を掴んでいた南の手に、力が入った。



「見ちゃ駄目!逃げて!」

「な、なんだ!?まさか新手のゾンビが…っ」



ラボへ続く廊下は一本道。
其処を塞がれてしまえば目的地へ辿り着くことはできない。
叫ぶ南に促されるまま背を向けながら、それでも慌てたバクが振り返り様に見たもの。



「…っ!?」



切れ目が見開く。
バクの視界に映ったのは、一人の人間だった。
コツ、とヒールを鳴らし覚束無い足取りで進む。



「り…っ」



それは、見間違えるはずもない。



「リナリーさん…!?」



バクの想い人、リナリー・リー。



「リリリリナリーさん…!」

「っだから見ちゃ駄目だって…支部長!リナリーもゾンビ化してるんです!近付いたら」

「リナリーさぁあああんんんん!!!」

「コラー!話を聞けー!!」



バクのリナリーへ向ける想いの強さは知っていた。
大量の隠し撮り写真を分厚いアルバムにして持ち歩くくらい、極度に偏った愛なのだ。
そんな想い人を目の前にして、尚且つゾンビという悪しきものに変えられた姿を見て、冷静さを保つ方が無理であろうとわかっていた。
わかっていたのだ。
だからこそリナリーに会わせてはいけないと思っていたが、どうやら一歩遅かったらしい。

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