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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「それで、どうやってあの神田を捕獲したのだ…」

「偶然の産物と言うか。ゾンビになってから嗅覚聴覚が更に鋭くなってるみたいで、何処にいても追っ掛けてくるんですよね。ラボでまた鉢合わせた時に、偶々其処で見つけた神田が被ってた子供になる薬を、再度投与したんです」

「そ、それで?」

「子供ならまぁ、なんとか。取り押さえるのに成功しました」

「そんな単純なものなのか…」

「ゾンビ化してからは、皆行動は単純ですよ。理由も単純。法則さえ掴めれば生き残れます」



暗い食堂前の廊下で、ギコ、ギコ、と大きな車輪が軋んだ音を立てる。
荷台に乗った大量の食料を引きながら、南はしげしげと見てくるバクの視線を受け止めた。



「というかバク支部長はラボに残ってて下さいって言ったのに。私は大丈夫だけど、支部長は噛まれたら終わりなんですよ。自分の身を守らないと」

「あんな所に一人で待てるものか。神田の呻り声が耳にこびり付いてるというのに…」

「怖いんですか?相手は子供ですよ」

「こ、怖くなどない!女である椎名の手助けをしようとだなっ」

「じゃあこの荷台引いて下さい。横で歩いてないで」

「う。し、しかしだな、急にゾンビが現れたら逃げ出せないのでは…」

「大丈夫ですよ。ティムが常に周りを探知してくれてますから。ゾンビが近付けばすぐに知らせてくれます」

「ガァ♪」

「…中々にできたゴーレムだな…」

「全くです」



食堂には強大な攻撃が振り撒かれたようなクレーター跡、廊下には点々と延々続く血痕。
明らかに今回のゾンビウイルス騒動を思わせる痕跡があちこちに残されているが、肝心のゾンビは見当たらない。
南の話を聞く限りでは、南以外に正常者はいないようだ。
なのに何故、あの廊下の隅に倒れていた警備班以外にゾンビは見当たらないのか。



「こうも無人だと逆に不気味だな…いつ襲ってくるか…」

「多分、大丈夫ですよ」

「何故そう言い切れる」

「彼らはゾンビのようでゾンビじゃない。中身は私達と同じ人間です」



廊下を歩いていた南の目が、ふと一点で止まる。
細い横穴のような通路で見つけたのは、壁に背を預けるようにして座り込んでいる団員。
虚ろな目に生気はない。
ゾンビウイルスに感染しているのは明白だった。

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