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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「ぃった…ッ」



まさか人で道を塞がれていたとは想定外。
急なブレーキも掛けられなかった体は顔面からぶつかってしまった。
どうやら相手は身長のある人物らしい、胸元にぶつかった鼻を押さえる南の口から小さな悲鳴が漏れる。



「大丈夫さ?南───」

「っ出て来ないで、ゾンビに気付かれるから」

「わぷっ」



白衣の隙間から顔を覗かせようとするラビを慌てて押し戻す。
目の前のゾンビには気付かれただろうか。
緊張した面持ちで、しかし取り乱さないように気を張りつつ、南は目の前のゾンビへと顔を向けた。



「…え…」



暗く丸い二つの瞳が大きく見開く。
微かに漏れた声は一つだけ。
そのまま固まったように動かなくなってしまった南に、ラビは白衣の中で身動いだ。

ゾンビに気付かれなくとも、早くこの場から立ち去らなければ。
いつ何時襲われても可笑しくはないのだ。



「ぉ、おい…南って」



怒られるのを覚悟で恐る恐る白衣の隙間から再び声を掛ければ、彼女の目はラビを見下ろしはしなかった。
見開いた目で真正面を見続けている。
釘付けになっているそこに何があるのか。
白衣の隙間から顔を出すことなく、ラビもまた見上げた。



(───あ)



其処にいたのは。
南と同じにくたびれた白衣を纏う、長身の男性。
生気の見えない表情でふらりと立つ──



「リ…バ、班長…?」



科学班班長であるリーバー・ウェンハム。



「………」



南の声に反応はない。
唸り声は上げていないものの、虚ろに宙を見て覚束無く立つ様は、ゾンビである証だ。



「は、班長…っ」



ふらりと、南の体が傾いた。



「っ、落ち着け南」

「だって、班長が…リーバー班長…っ」



彼は無事かと思っていた。
コムイと並び、誰よりも頭脳明晰で現場での叩き上げの実績も持つ。
そんなリーバーだからこそ、そう簡単に他の団員達のようにゾンビにやられはしないと。
漠然とだがそう思っていた。
リーバーと合流できれば、ワクチンを作り上げることもできるかもしれない。
そんな薄い望みをも持っていた。

だからこそ感じる絶望は計り知れない。

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