第82章 誰が為に鐘は鳴る
「ま、待つさ南っ無鉄砲に出ていくんじゃねぇってッ」
「声抑えて、ラビ。気付かれる」
「無鉄砲の特権はオレだろっ南はオレを止める役目だってッ」
「そうやって無茶ばっかりラビがやってるから、私にも移ったのかもね。止めないでよ、今突破口を探してるんだから」
柱から身を乗り出し備に周りを観察する南の腰に、後ろから慌てたラビがしがみ付く。
無茶ばかりしていたエクソシストを傍で見ていた南の心境は、こんなものだったのか。
そう知れば罪悪感も浮かぶが、兎に角彼女に無理はして欲しくない。
「ほ、ほら。まだ例の変な音聞こえるんじゃね?なんだっけ、洗濯機回すような音?」
「違うよ、排水溝が詰まったような音。何処かのトイレが水漏れでもしてたのかもね。幸い今は聴こえないから、改善したのかも」
「今だけでまだ傍にいるかもしんねーだろっ?お、ぉおおぉば、おば、おば、け、とか…っ」
「そんなに怖いなら必死に絞り出さなくていいよ」
必死にラビが説き伏せようとするも、南は聞く耳なし。
文字通り黒く長い獣耳を逸らして突っ撥ねている。
「っだから…ッ自分の体よく見ろってッそんな血塗れで出てったら速攻ゾンビの餌食になるさッ」
歯痒さを感じたラビの口調が荒くなる。
ようやくラビの言葉に耳を貸したのか、南の目は亡者の群から自身の姿へと移り変えた。
成程確かにラビの言う通り。
真っ白なはずの白衣はあちこち血に染まり、クラウドや神田達に襲われた経緯もあってか廃れて大いに煤汚れてもいる。
とてもじゃないが汚い。
大いに汚い。
「───あ。」
血生臭い自身の姿を見下ろしていた南は、不意にぴんと獣耳を立たせた。
「此処を通り抜ける方法、一つあるかも」
「へ?」
「言ったでしょ、私もラビも服薬した婦長の薬は、仮のワクチンであって正規のものじゃないって」
「? いきなりなんさ、話が見えねぇんだけど…」
ようやくラビへと振り返り向けられた南の顔。
それは確かな解決法でも見つけたのか、微かに笑っていた。
「ウォーキング・デッドって知ってる?」