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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



✣ ✣ ✣ ✣



「ハァ…此処まで来れば平気さっ?」

「に、逃げ切った…」



猛スピードで風を切っていた鉄槌の動きが、ゆるゆると徐々に速さを弱めやがて止まる。
前回鉄槌に乗せられ酔いに酔った南への気遣いか。
それでもふらふらと足元覚束無く彷徨わせながら、南はなんとか倒れずに床に足を付け踏ん張った。

ラビが振り返った長い廊下の先。
科学班のラボなど到底遥か先。
真っ暗な闇の中から、唸るような声は聞こえてこない。
どうやらゾンビ達から逃げ切ることに成功したらしい。



「間一髪だったさー…」

「ま、待ってラビ。こんな所で座り込まないで。またいつ何処からゾンビが現れるか…っ」

「大丈夫さ、多分。南の耳だって何も聴こえてねーんだろ?」

「それはそうだけど…」

「ならちょっと一息させて」



鉄槌をミニサイズに戻し、脱力気味に床に座り込むラビ。
慌てて南が止めれば、緩い表情をしていても的確な事柄を返される。
どうやら一時的にだが、危険は回避できたらしい。
今まで張り詰めていた緊張の糸を解くように、南も恐る恐る肩の力を抜いた。










───ズ…ッ










「っ!?」

「? どしたんさ?」



跳ね上がる南の兎耳。
ばっと振り返った南が凝視した先は、先程ラビが伺っていた後方の廊下の闇だった。

音が、聴こえた気がした。
何かを引き摺るような、そんな音。



「ぃ…今、何か音が…」

「げ、まじかよ。ゾンビが追いかけてきたんかな」

「それとはなんか違う気がする…」

「なんかってなんさ」

「上手く言えないけど…人っぽくないような…」



鋭い聴覚を備えた南の耳は、繊細な音を聞き分ける。
足音、唸り声、物音、雨音。
今し方耳に掠めた音は、そのどれとも異なる。

物音と言うには歪な音。
なんの音だろうか。



「前にも…聴いた、気がするんだよね…」

「……ホラーあるあるなら今要らねーからな。流石に怒るかんな!」

「私だって言いたくて言ってるんじゃないんだってば!」



堪らず悲鳴のような声を上げるラビに、堪らず南も声を荒げる。
聞き間違えであればそれに越したことはない。

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