第82章 誰が為に鐘は鳴る
「グルァアア!?!」
「ガァウァア…ッ!」
強い光に目を焼かれ、血走らせた両の目をかっ開いていたゾンビ達は一斉に足を止めた。
堪らず顔を伏せ、苦しみ悶える。
その瞬間をラビは見逃さなかった。
「行くぞッ」
素早く槌を足場に柄を握ると、先端をラボの突き破られた硝子ドアへと向ける。
「ま、待ってまさか───」
「"伸"っ!」
「やっぱりぃいい!?!!」
嫌な予感を感じ取った南は慌てて止めに掛かった。
もしやそれは、いつぞやの任務で体験したものではないかと。
がしかし、一足遅く。
しなる鞭のように伸縮自在に飛び出した鉄槌の柄に、柄を握っていたラビの体も同時に飛び出す。
そしてそのラビの体に抱き付いていた南もまた然り。
「こんな狭い場所で伸なんて使ったら…!」
「大丈夫さ!それより振り落とされんなよッ!」
真っ直ぐに伸びる鉄槌の柄に、狭いラボの中ではすぐに壁かどこかに激突してしまうだろう。
そう予想して強く目を瞑る南の体に、しかし身構えた衝撃はやってこない。
それもそのはず。
小さな体で器用に柄を握る力を変えて矛先を微調整しながら、ラビが出入口まで導いたからだ。
ゾンビ達の目が回復する前に、まるで風のようにラビと南の体はラボの中から過ぎ去った。
「このまま遠くまで逃げ切るさ!伸、伸、しーんッ!!」
「あ、安全運転でお願いしますーッ!!!」
弾むようなラビの声と切実なる南の悲鳴。
二つの声を入り混じらせながら、暗い廊下の先へとあっという間に鉄槌は二つの体をも運び去った。
残されたのは、獲物を食らい損ねたゾンビのみ。