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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「───ねぇ、ラビ」

「なんさ」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫だって。それよか南はしっかりオレに掴まってろよ。今の体じゃ抱えてやることできねぇんさ」

「…やっぱり、心配…」



自分より遥かに小さな体を見下ろしながら、南は不安な顔色を隠せずにいた。
どう見ても不安しかない。
果たしてラビが思い描くように、物事は上手く進むのか。



「じっとしててもゾンビは増えるだけさ。益々脱出難度が高くなるだろ。南、腹括れ」



どうやらラビは意を決しているらしい。
巨大化させた鉄槌を片手に、目の前の扉の錠に迷いなく手を掛けるラビに南もまたぎゅっと唇を噛み締めた。
確かに彼の言う通り。
時間は物事を良い方向へと運んではくれない。



「じゃあ…離れないでよ」



細い胴体に腕を回して背後から抱き付く南に、ちらりと振り返ったラビは幼い隻眼を緩めて笑った。



「禁止なんだろ?」



へらりと笑う顔は幼くとも、変わらないラビそのもの。
その笑顔を見ているだけで落ち着いてくる心に、ほぅと南は深く息を吐いた。

それを合図と見做したのか。
きりりと表情を切り替えたラビが目の前の扉に向き直る。



「3つ数えたら出るぞ」

「…ん」



こくりと頷く南に、ラビもまた深呼吸を一つ。



「───1、」



じんわりと鉄槌の側面が淡い光を纏う。



「2、」



がちゃりとラビの手が錠を回した。



「3!」



バンッ!と勢いよく押し開かれる扉。
開く視界に南の目に見えたもの。
それは予想していた通りの光景だった。



「ガルァアア!」

「ギシャァアア!」



牙を剥き目を血走らせ唸り声を上げるゾンビ達。
忽ちに襲い掛かってくる彼らの手が届く前に、いち早くラビの手が鉄槌を振り上げた。



「"木判"」



巨大化した槌の側面に浮かび上がるは、"木"の字。



「目ェ潰れ南!」

「っ!」



固く南が目を瞑ると同時に、振り下ろされる鉄槌。
床を強く叩くと、カッ!と眩い光が鉄槌から放たれる。
それは目の前の景色が真っ白に塗り潰される程の、眩い光だった。

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