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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「ッラビ!いい加減目を覚ましてよ…!」

「グルルル…!」

「エクソシストでしょ!ブックマンでしょ!?それくらいで駄目になるような人間じゃないでしょッ!」

「ガルルル…!」

「だから…ッ痛い!あだだだッ!」



必死に説くも、まるで聞く耳無し。
子供とは思えない強い力で押さえ込んでくるラビに、暴れた南の白衣が乱れる。

かつん、と床に転がったのはポケットに忍ばせていた注射器ケース。
倒れ込んだまま視界の隅に捉えた南は、目色を揺らがせた。



「…っ」



わかっている。

この仮のワクチンはクロウリーの為のものだ。
この場で使うべきものではない。

わかっている。

ここでラビの正気が戻っても、体は小さな子供のまま。
大きな戦力になるとも思えない。

わかっている。
わかっているのだ。

それでも。



「…ッ…私の馬鹿…ッ!」



再度強く自身を詰るように悪態を突くと、南は無事な片手を注射器ケースへと伸ばした。
捥ぎ取るように掴み取り、無造作に取り上げる。

時間にして数秒程。
血の滲む手を引き寄せ、噛み付いたラビの顔が近付く。
その細く小さな首へと、注射針を突き刺した。



「グルル…!」



殺気だった目と唸り声は変わらず。
痛みで涙が滲む目で見返したラビの顔は、ティムキャンピーと同じだった。



「ルル………る…?」



ぽかん。
そんな効果音が付きそうな、間抜けな表情が突如浮かび上がる。
噛み付かれた口が離れ、痛みが和らぐ。

どうやらゴーレムだけでなく、人間にも婦長の薬は効いたらしい。
南自身が無事であるのだ、その結果はわかっていた。
しかし液化させた状態でも驚く程の効果に、南はヘナヘナと力なくその場に脱力した。



「……みなみ…?」

「…私って超天才…」

「へ?」

「…私って大馬鹿…」

「は?」



即効性の鎮静剤を作れたことは胸を張っていい。
この場にリーバーがいたなら迷わず褒めてくれただろう。

しかし使い方を間違えてしまった。
わかっていながら、その道を選んだのは南自身だ。

彼を求めた心が在ったから。
理性よりも本能に従ってしまった。
これではゾンビと大して変わらないかもしれない。

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