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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「よかった、使える」



無事であったクロマトグラフィー機器を作動させながら、安堵の笑みを浮かべる。
どうやら必要な機器は揃っているらしい。
唯一無事であった最後のカプセル剤の中身をシャーレに取り出すと、南は手早く行動を起こした。

まずは薬の解析。
それから分離調整。
液状に分解してしまった薬が果たして同じ効能を持つのかどうかは南の頭脳では判断し兼ねたが、迷う素振りは見せなかった。
迷っていては隙が生じる。
そこで息の根を止められれば終わりだ。
賛同してくれたティムキャンピーの為にも、自分を信じて進むしかない。

地道にぽたりぽたりとエバポレーターに取り付けられたフラスコの中に溜まっていく、少量の透明な液体をじっと見つめる。
じっとりと額に汗が浮かぶ程に緊張しているのは、初めてこのラボで働き始めて以来か。
分厚い硝子扉の向こうから聞こえる呻き声を無視するかのように、一度も振り返ることなく南は目の前の作業に集中し続けた───






























「で、できた…」



地味に長い時間を所要したように感じる。

一滴残らず液化した薬を慎重に注射筒の中に詰めると、付属である針を取り付ける。
恐る恐る具合を確かめるように可動式の押子に力を込めれば、細い金属の針官の中から僅かに滲み出る液体。
その様を見てやっと、南の口からほぉっと大きな溜息が漏れた。

大事に専用ケースに注射器をしまい、凝りに凝った肩を大きく下げる。
じっとりと嫌な汗を吸い込んだ白衣の襟元に、堪らず首を捻った。



「とりあえず第一関門は突破かな。後はクロウリーを見つけないと───」



がしゃんっと。
南の声を遮ったのは、けたたましい音だった。

まるで硝子が割れるような音。
それは南の一度も振り返らなかった背後から。



「………」



嫌な予感しかしない。
それでも黙って硬直している訳にもいかず、恐る恐るぎこちない動作で首を後ろに捻る。



「…嘘でしょ」



其処には南の予想した光景があった。



「グルル…」



分厚いオートロックの硝子扉をぶち破り、割れた破片を物ともせず潜り込んできた小さな鬼。
神田ユウの姿が。

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