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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



(え?)



微かな亡者の声を南の獣耳が拾う。
と同時に、反射的に動いた体は真横にあったラボの扉の取っ手を掴んでいた。



「ガアァア!」

「っ!」



振り向き様に扉を押し閉める。
咆哮のような呻き声は、分厚い硝子扉の向こう側にあった。



「神田っ?」



其処にいたのは、扉に張り付く小さな亡者。
アレンと共にティムキャンピーを追い掛けて行ったとばかりに思っていた神田ユウの姿だった。



「わ、私に気付いたの?」



亡者と成り果てても、AKUMAを狩るエクソシストのように獲物を追う嗅覚は鋭いままらしい。
硝子を一枚隔てた向こう側にいる神田を凝視すれば、歯を剥き出しに血走った眼と目が合う。
殺気だったその目はとてもじゃないが、幼い身形の少年が浮かべるものではない。
背筋を走る寒気に、南は堪らず扉から後退った。



「ゾンビ化すると尚怖い…」



元々暴君のような性格をしている神田だが、なけなしの理性が飛べば最早鬼でしかない。
少年の姿であっても感じる恐ろしさにふるりと獣耳を震わせ、南は心配そうに辺りを伺った。
神田の他にも残っているゾンビ化人間はいないだろうかと。



「あっ」



ぱっと明るいふわふわの髪は、南の目にすぐさま飛び込んできた。



「ラビっ」



神田同様、ティムキャンピーに釣られなかったゾンビがもう一人。
神田同様、少年と化したエクソシストのラビ。

神田のように歯を剥き出しに威嚇してくることはなく、ふらふらと辺りを彷徨っている。
虚ろな顔で、生気の見えない目に、覚束無い足取り。
やはりゾンビにしか見えない姿に南は眉尻を下げると、ぐっと唇を噛み締めた。

彼のそんな姿を見ているだけでも痛々しい。
早く元に戻してやりたい、という気持ちが競り上がってポケットから薬の入ったケースを取り出す。
未だ壊されていない科学機器へと、南は向き直った。

ラボの中にゾンビはいない。
唯一気掛かりなのは扉を塞いでしまった神田だが、小さな体では分厚い硝子扉を破ることはできないだろう。

なんとしてでも薬を即効性のワクチン(仮)に変えなければ。
くたくたの白衣の袖を、奮起するように南は捲り上げた。

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