第82章 誰が為に鐘は鳴る
「でもそんなことしたらティムが…」
「ガァアッ」
「アレンを助けたい気持ちはわかるけどっ」
傍から見れば、南の単なる独り言のようにしか見えない。
しかし確かに目の前の金色ゴーレムと意思疎通はできているようだった。
必死に首を横に振る南は、ティムキャンピーを心配しているのか。
しかし彼女の心配を他所に、主人の弟子を思うゴーレムは弾丸のように廊下の角から飛び出した。
「ティム…!」
ティムキャンピーが南に提案していたのは、まさしく"これ"だった。
己が囮となり、ゾンビ化した団員達をラボから誘き出すというもの。
慌てて後を追い飛び出そうとした南の足が、急遽止まる。
「グルルァアア!」
「ガァアウア!」
金色に輝く獲物を見つけたゾンビ達が、我先にとラボから飛び出してきたからだ。
そこには雪のように真っ白な頭の少年の姿もあった。
「うわ…一番に追い掛けてる…ティムのことわかるのかな、アレン…」
元帥とは違い、ゾンビと化したアレンに言葉を交えられるだけの思考はないはず。
しかし、それはまるで大量のジェリー特性料理を目の前にした時の如く。
くわっと目を光らせ一番にティムキャンピーを追うアレンの姿は、他のゾンビとは違う目で金色ゴーレムを見ているようだった。
銃弾の如く、金色の閃光を宙に残しながら暗い廊下の闇へと飛び立つティムキャンピー。
その後を追うゾンビの群は、角の隅に隠れた南の姿を捉えることはなかった。
「ぅ…上手く、いった…?」
時間にすれば、数分も掛からなかっただろう。
あっという間に蛻の殻となる科学班のラボ。
恐る恐る辺りを見渡しながら張り付いていた壁から身を離し、南はラボの中を覗き込んだ。
床の至る所に割れたガラスや壊された機器は転がっているが、まだ使えそうなものも残っている。
「ごめんね…ありがとう、ティム」
折角仲間ができたと思えば、また一人。
しかしティムは体を張って南の手助けをしたのだ。
結果を出さずしてどうすると、南は意を決して荒らされたラボの中に踏み込んだ。
「グル…」
後ろで蠢いたのは、一つの影。