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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「……ラビ」



壁に張り付いたまま、不意に小さなオレンジ頭を見つめる。
ぽつりと呼んだ彼の名は、悲し気な音色だった。

やはり彼もまた助からなかったらしい。
普段の明るくやんちゃな面影が見えない小さなゾンビの風貌に、南はしゅんと肩を落とした。

しかし落とした理由は、それだけではない。



「どうしよう…これじゃあラボが使えない…」



誰が開けたのか、いつもはオートロックが掛かっているラボの透明で大きな両開き扉は開放されており、その中には大量の白衣を着た科学班ゾンビ達の姿があった。
とてもじゃないが、いくらゾンビ化しない南でもこの亡者の中を無事に過ごせる可能性は低い。



「あのゾンビ化した皆をどうにか出さないと…何か餌になるものないかな…」



じっとしていても変化は訪れない。
壁にぴたりと張り付いたまま、きょろきょろと辺りを伺う南。
しかし目ぼしいものなど何も見つけられなかった。



「(やっぱり餌って言ったら…)………うん」



辺りを見渡していた目がやがて辿り付いたのは、自分自身。
己の、肉体。



「いやいやいや。ないないない」

「ガア?」

「うん。いや。無理。自殺行為でしかないから」



どう足掻いてもゾンビが目を光らせ追い掛けて来るのは、この肉体しかないだろう。
しかしそれでは誰が薬を液状化させるのか。
体は一つしかないのだ。
手段は限られてくる。



「う~ん…せめてもう一人仲間がいればなぁ…」



腕を組んで悔し気に呻る南の肩の上。
じっと大人しく乗っていた金色ゴーレムが、不意にぴょこんと南の目の前に飛び上がった。



「ガァッ」

「え?」



尾や羽根を揺らし、何か主張をしてくる。
喋られないティムキャンピーは、通常はボディーランゲージ。
小さな体を駆使して感情を伝えてくるが、それを鮮明に読み取れるのは主であるクロス・マリアンとその弟子アレン・ウォーカーのみ。



「ガァッガァアッ」

「えっ本気で言ってるの?」



しかし先程の死闘で小さなゴーレムと通じ合った南もまた、あっさりはっきりティムキャンピーの心の声を捉えた。

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