第82章 誰が為に鐘は鳴る
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「ガァアア…」
「グルルル…」
荒立った声ではない。
しかし確かな呻き声は、複数のもの。
「……そういえば、コムイ室長が言ってたよね…ラボ、亡者の山だったって」
「ガゥ…」
「…本当に山ができてる…」
「ガァ」
恐る恐る、廊下の角からぴったりと壁に張り付いて先を覗き見る南とティムキャンピー。
無事辿り着いた、科学班専用ラボ。
その中には、大量の亡者が蠢いていた。
「あっアレンがいるっ」
「!」
一際目立つ真っ白な頭を南が見つければ、ティムキャンピーがぴんと尾を立てて軽く飛び上がる。
他の団員達のように唸り声は上げていないが、生気の見えない目に覚束無い足取り。
シャツにベストに蝶ネクタイの、ぱりりとした姿の少年。
それは確かに、ゾンビと化したアレンだった。
「やっぱりエクソシストでも駄目だったんだ…どんだけ強いの、ゾンビウイルス…」
そしてどれだけ婦長の薬が凄いのか、改めてよくわかる。
寄生型エクソシストであるアレンやクロウリーでさえもゾンビと化してしまう恐怖のウイルス。
眉尻を下げ紳士の欠片も見えないゾンビアレンを見つめる中、南はその足元に二つの小さな頭を見つけた。
「あ」
オレンジ頭と真っ黒頭。
アレンと同じ未成年エクソシスト。
ただ今は科学班の薬で幼児化してしまっている、ラビと神田の姿。
(なんだかんだ三人ってよく一緒にいるよね…仲良しだなぁ)
年齢が近いエクソシスト仲間、ということもあるのだろうか。
アレンと神田が喧嘩を起こし、それを仲裁するラビの姿はよく見掛けていた。
本能だけで動く生き物と化しても、それは変わらなかったらしい。
「勘が鋭くなってるのかな…」
寧ろ本能のままに動く生き物となってしまったからだろうか。
ラボと隣接している保管室のドアに爪を立てて縋る神田の姿を目に、南は感心気味に呟いた。
神田は六幻を欲して此処まで彷徨ってきたのかもしれない。
恐るべし、エクソシストの執念である。