第82章 誰が為に鐘は鳴る
「………」
「ガァ…?」
「………うん。やっぱり、気の所為かな」
目を凝らしていた、後方の深い闇から目を逸らす。
捻っていた首を戻した直後。
───ぐぷ、り
「っ」
背後で聴こえた、何かが溢れるような音。
思わず息を呑む南に、しかしティムキャンピーは何も感じていないのか特に反応は示さない。
「………」
じっと黙り込んで背後の様子を伺う。
振り返らずに、真っ黒な獣耳だけを背後に向けて。
しかし返ってくるのは、シンとした静寂だけ。
「……行こう、ティム」
"音"はもうない。
しかし背筋に少しだけ寒いものを感じながら、それを振り払うかのように南は足早に歩き出した。
早くこの不可解な居心地の悪さから脱したい。
その一心で。
(早く鎮静剤を作り直して、クロウリーを味方にして…ワクチンを、作らなきゃ)
ぐぷりと何かが溢れるような、零れ落ちるような、不可思議な音。
昔に何処かで聴いたことがあるように思えたのは、きっと気の所為だと言い聞かせた。