第82章 誰が為に鐘は鳴る
「ガァアア!」
「っ…!」
完治していない足では、他団員達のようには追い掛けられない。
それでも牙を剥き涎を垂らし向かってくるジョニーに、南はぐっと唇を噛み締めると意を決して背を向けた。
目の前にあった両開きのステンレス扉から飛び出し、すぐさま振り返る。
幸いにも冷蔵用のその部屋は錠付きで、ガチリと錠を回すと同時に扉にジョニーの細い体がぶつかった。
『ガァアウ!』
「っ…ジョニー…」
丸い硝子窓に顔を張り付けて牙を剥き出しに呻る。
親しい同期の姿を跡形もなく散らした姿に悲しみを覚えつつ、南は目を逸らした。
「ごめん…っ其処で少しだけ待ってて」
今の自分では彼を助けられない。
だが、すべきことはわかっていた。
感染源であるクロウリーを見つけ出し、ワクチンを作り上げること。
己の意識が正常である原因を突き止めること。
そして。
「必ず助けてあげるから…っジョニーが助けたがってた、アレンやラビ達……リーバー班長やコムイ室長を見つけて」
上司であるリーバー達のゾンビ化は、まだ確認していない。
もしかしたら無事であるかもしれない、彼らを見つけ出すこと。
硝子窓越しに決意を込めて。
名残惜しさを感じ何度も閉じた分厚いステンレス扉を振り返りながらも、南は足早に厨房を後にした。