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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



正常者ではない。
となるとウイルス感染者か。
相手がゾンビ化した団員ならば、逃げる他道はない。

しかし南の足はその場に縫い付けられたように、動かなかった。

恐怖からだけではない。
肉を貪り喰らう背中には、見覚えがあったからだ。

自分と同じに、くたびれた白衣。
色素の明るい髪色。
特徴的な癖っ毛は、いつも無造作にまとめられている。



「っ…ジョニ…?」



男性にしては小柄な背丈。
それは、充分過ぎる程に南が知る人物だった。

がつがつと生肉を貪っていた音が止まる。
恐る恐る呼びかけた南に、彼は躊躇なく振り返った。

ゴロゴロと雷鳴が鳴り響く。
ピシャン!と強めに鳴り響いたかと思えば、窓の外が真っ白に光り輝いた。

眩い光に照らされて見えたもの。

大きな瓶底眼鏡。
ひょろりとした手足。
真っ白な光に照らされた彼───ジョニー・ギルの顔は、至る所に赤い汁を滴らせていた。



「グル…ル…」



ふらりふらりと、覚束無きのない動きでジョニーが立ち上がる。
ゾンビと化しても満足に動かせない体の機能はそのままらしく。
微かな唸り声を上げながら、両手を突き出し歩み寄ってきた。
ずるりずるりと、片足を引き摺って。



「っ…ジョニー…ッ」



その姿はどう見てもウイルス感染者。
正気を保っているようには見えない。

やはり彼は感染してしまったのだ。
恐らく南が襲われた時と同じくして、食堂で襲われたのが運の尽きだったのだろう。



「なんで…っ」



しかしそこには疑問が浮かぶ。
条件は南と同じだ。
なのに何故ジョニーはゾンビと化し、南は正気を保っているのか。

仲間がゾンビと化した絶望と、自分が無事なことへの困惑と。
戸惑いと葛藤を抱えながら、南は力の入らない足で後退った。



「ジョニー、私だよ…ッ南!わかるっ!?」



それでも希望は捨てられずに、必死に呼び掛ける。
もしかしたら正気に戻るには、何かきっかけが必要なのかもしれない。



「ジョニーお願い、返事して…!」

「グルルァア!」

「それは返事と見做さないから!人語話してくれるかな!」



しかし希望は薄いようだ。

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